入社時教育の落とし穴|軽視した会社に何が起きるか

入社時教育の落とし穴は、教えなかった瞬間ではなく、じわじわと定着率の数字に出るまで誰も気づかないことです。福島県819社の調査とアイティフォーの実例から、自社が「やっている側」かどうかを点検する方法を説明します。

入社時教育の落とし穴は、教えなかった瞬間にはない。数か月後、じわじわと人が減っていく数字の中にある。

「今年もまた一人辞めた」「理由ははっきりしない」——そう感じている会社は、少なくない。だが、その理由は、探せば意外と近くにある。

「特に取り組んでいない」会社は、もう数字に出ている

福島労働局が、新規高卒者を採用した県内819社を調べたことがある。全体の平均離職率を基準に、定着率が良い会社と、そうでない会社に分けて、何が違うかを比べた。

差が出たのは、外部の研修に参加させているかどうかだった。定着率が良い会社は、民間主催の研修利用が6.1ポイント、行政機関主催の研修利用が3.4ポイント高かった。逆に、定着率が良くない会社では「特に取り組んでいない」という回答が10社に1社を超え、定着率が良い会社を大きく上回った。

福島労働局819社調査。社員定着の良好企業は「特に取り組んでいない」が3.7%、それ以外の企業は10.2%

「うちも新卒には一通り教えている」というとき、その「一通り」が何を指すかは、会社によってかなり違う。先輩が数分で説明して終わりの会社もあれば、外部の研修を組み合わせている会社もある。その違いは、福島局の819社調査では、そのまま定着率の差になっていた。

やっている会社に、実際何が起きているか

アイティフォーという会社の有価証券報告書に、こんな記載がある。

若手社員向けの研修を増やし、対面で実施し、人事との接点を増やした。その結果、2023年、2024年に入社した新卒社員の退職者はゼロを継続している。経験者採用でも、入社から6か月間に2回のオンボーディングとフォローを実施し、離職率の低下につながっているという。こうした複数の取り組みの結果、全社の自発的な離職率は2022年度の5.8%から、2023年度5.0%、2024年度3.4%へと下がった。

エン・ジャパンが甲南大学と行った416社への調査でも、方向は同じだ。実際の定着率そのものではなく「定着率が高いと感じているか」という回答だが、オンボーディングに力を入れている企業は、そうでない企業より「定着率が高い」と答えた割合が36%対20%、「パフォーマンスが高い」と答えた割合が33%対17%だった。

入社時教育は、やった側にも、やらなかった側にも、数字として残る。何年か経ってから確かめても、消えない。

先進企業は、具体的に何をやっているか

「やる」の中身は、豪華な研修プログラムでなくていい。

インド・バンガロールのコールセンター企業ウィプロが、入社時期の異なる605人を3つの群に分けて行った実験がある。入社初日に、本人の強みを仕事にどう活かせるかを一緒に考えた群は、仕事内容と会社の説明が中心だったウィプロの標準的な研修を受けた群より、6か月以内に辞める割合が32%以上低かった。会社の価値観を伝えることに重点を置いた研修を受けた群と比べても、21%低かった。

Spotifyは、新任エンジニアが自分の書いたコードを10本目のプルリクエストとして反映させるまでの日数を指標にしている。社内の情報や標準的な進め方を1か所にまとめる仕組みを整えたところ、その日数は60日超から20日まで縮んだという。

Googleは、新入社員を受け入れる管理者に、やるべきことの行動チェックリストを渡している。Microsoftは、上司が積極的に関わることと、話しやすい先輩役をつけることの両方を大事にしている。

初日に何を渡すか、誰が最初の相談役になるか。ウィプロもSpotifyもGoogleもMicrosoftも、そこを偶然に任せていない。

だから、点検は今すぐできる

大きな投資をしなくても、まず自社がどちら側にいるかは確かめられる。

直近1年で入社した人について、外部の研修に1回でも参加させたか。入社から6か月、1年の時点で、何人が残っているか。誰が最初の相談役になったか。この3つを数え、書き出すだけでいい。

福島局やエン・ジャパンの調査が使ったのと同じ物差しに、自社を当てはめてみる。それだけで、「うちは大丈夫」だと思っていた場所が、実は「特に取り組んでいない」側だったと気づくことがある。気づいた時点で、もう手遅れではない。次に入社する人からで、間に合う。


ここで挙げた国内の数字は、性質がそれぞれ違う。福島局は複数企業を横断した観察調査、アイティフォーは1社の実数の推移、エン・ジャパンは各社への意識調査での回答割合だ。研修をすれば必ず離職が防げると保証するものではなく、給与水準や職場の人間関係など、ほかの要因が影響している可能性も残る。海外の事例(ウィプロ、Spotify、Google、Microsoft)は、各社が自ら公表した社内比較であり、比較対象の詳しい条件までは公開されていない。

それでも、「入社時教育は大事」という感覚だけで終わらせず、実際に数字で確かめている会社があるという事実は変わらない。入社時だけでなく、配属後の育成が続かずに同じ問題が起きるケースは、「育成しても辞める」と言う会社は、たいてい育成しきれていないでも扱っている。

MarioRossiでは、入社時教育の立ち上げから、定着状況の点検の仕方まで含めて伴走している。まず自社の数字を数えるところから始めたい方は、入社時教育・育成支援のページをご覧いただくか、お問い合わせください。

出典

  1. 支える主張新卒採用企業819社を定着率で二分すると、差が出たのは外部研修の利用有無だった

    新規高卒者の職場定着に関する調査結果報告書(概要版)厚生労働省 福島労働局・参照 2026-08-23
  2. 支える主張若手研修の強化と経験者オンボーディングの実施で、新卒退職者ゼロ継続・離職率が逓減した

    株式会社アイティフォー 第66期有価証券報告書金融庁 EDINET・参照 2026-08-23
  3. 支える主張オンボーディング注力企業は非注力企業より定着率・パフォーマンスの自己評価が高い

    中途入社者のオンボーディングと入社後活躍エン・ジャパン株式会社 入社後活躍研究所(甲南大学 尾形教授との共同研究)・参照 2026-08-23
  4. 支える主張Wipro605人の実験で、初日に本人の強みを扱った群は定着率が高かった

    Reinventing Employee OnboardingMIT Sloan Management Review・参照 2026-08-23
  5. 支える主張新任エンジニアの実務到達日数が60日超から20日へ短縮した

    How Backstage Made Our Developers More Effective and How It Can Help Yours TooSpotify Engineering・参照 2026-08-23
  6. 支える主張管理者向けチェックリストの実施で新入社員の立ち上がりが早まった

    The surprising power of checklistsGoogle (Students Blog)・参照 2026-08-23
  7. 支える主張管理者の関与とバディ制度が新入社員の満足度・貢献実感と関連していた

    Strategies for Onboarding in a Hybrid WorldMicrosoft WorkLab・参照 2026-08-23